それぞれ一緒にいた相手に断りを入れた後、ルルーシュとユーフェミアは場所を移動して、中庭にあるベンチに並んで座っていた。中庭の隅であるため人がやって来ることはほとんどなく、また誰かが近づいてきたとしても三百六十度視界の開けた場所であるためすぐに分かる。周りに隠れるようなものがないような開けた場所というものは、下手に閉じた空間よりも、よほど内緒話に向いている。
それなのに、ユーフェミアは一向に話しかけてこようとはしない。中等部の制服を着ている彼女は、高等部の構造になど詳しくないだろうと気を使って、まだ不慣れな学園内地図を頭に思い浮かべて、人に聞かれたくない話をするのにぴったりの場所まで案内してやったというのに。ルルーシュの顔と胸と、そしてスカートの裾とをちらちら見比べて、戸惑ったような顔をするばかりである。
このままではいつまで経っても埒が明かないと判断したルルーシュは仕方なく、こちらから話しかけることにした。
「さて」
まだ何も切り出していないのに、隣に座っている少女はびくりと肩を揺らす。見た目だけを考えればぴったりと言ってもかまわない小心な様子だが、彼女はあの有名な血染めの皇女なのだ。どうにもイメージと合致しない。しかし、怪訝に思いながらも、ルルーシュは動かした口を止めない。
「もうお分かりかもしれませんが、私は貴方の思っている人物ではありません」
「あ……」
戸惑っていたようなユーフェミアの顔が、一気に暗くなる。ルルーシュが女であることに気付いても、万が一の可能性にかけていたのだろう。女装とか、あるいは性転換とかいったような。希望を打ち砕かれた彼女はあからさまに沈み込んでしまった。
「そう、よね……ルルーシュは、男だったもの……そんなはずないわよね……ごめんなさい。貴方が、とてもルルーシュに似ていたから……」
泣きそうになりながらも、何とかぎこちない笑みを浮かべた彼女はしかし、次の瞬間「あ」と短く声を上げて丸く目を見開いた。今度は何だと思っているルルーシュに、怒涛の勢いで話しかけてくる。
「ごめんなさい!その、今のは別に、貴方が男の人に見えるとかそんなことが言いたいんじゃなくて、あの、ルルーシュはマリアンヌ様……あ、ルルーシュのお母様のことなんだけど、すごく綺麗な方で優しくて、他の皇妃から生まれた私たちのこともかわいがってくださったの。他の兄弟たちのお母様なんて、近寄るだけで顔をしかめるような方ばかりだから、最初に会ったときは信じられなかったわ。それに、優しいだけじゃなくてものすごく強い方で、私だけじゃなくてお姉様もあこがれていたぐらい素敵な人だったの!……って、あら?私、いったい何の話をしていたのかしら?」
途中で話が脱線していることに気付いたのか、ユーフェミアはきょとんとあどけない表情を浮かべて首を傾げる。しかし、そんなことを聞かれても、まさか『男の知り合いと間違えたけど、別に貴方のことが男の人に見えるわけじゃないのよ』なんてことを必死になって説明されていたなんて、正直口にはしたくない。
ルルーシュが曖昧に笑っている間に、ユーフェミアは自力で話題を思い出したのか、話を再開する。
「あ、そうそう、それでルルーシュのことなんだけど、ルルーシュはそのマリアンヌ様にそっくりで、すっごく綺麗な顔をしていてね、女物のドレスなんか着ていたら絶対男の子には見えない人だったの。いつだったか、無理やりドレスを着せて連れまわしたことがあるんだけど、会う人皆、全然ルルーシュが男の子だってことに気付かなくってね。ルルーシュはものすごく複雑そうな顔をしていたわ」
男のくせに女の格好をしている変態だと思われなくてほっとしたのだが、誰にも男だと気付かれないことに男としてのプライドをずたずたにされたに違いない。複雑な顔をしたくもなるだろう。想像するだけでものすごく憐れだ。
しかし、聞いている分にはとても面白い話であるはずなのに、何故だろう。聞いていて、妙に切ない気分になるのは。何と言うか、シュナイゼルにどれだけ女だと言い張っても、信じてもらえなかったときの気分に似ている。親近感でも湧いたのかもしれない。
「さすがにシュナイゼルお義兄様やお姉様にはばれちゃったけど、クロヴィスお義兄様なんか全然気づかなくて、私思わず噴き出しちゃったわ。それでね、もっと面白いことがあるんだけど、ルルーシュったら、そのときに会った貴族の子弟に求婚されちゃったのよ。そのときのルルーシュの顔ったら!ふふ、思い出したら今でも笑えちゃう」
そう言ってころころと笑うユーフェミアは、ついさっきまで泣きそうになっていたのが信じられないぐらい楽しそうだ。あれだけ熱烈に反応するほど心配していた義兄あるいは義弟のことを語るにしては、不思議なぐらい明るい態度だ。
隣に座っているのが己の義兄弟ではないと分かっていても、ルルーシュがあまりに”ルルーシュ”にそっくりだから、話している途中から無意識に混同してしまっているといったところだろう。先ほど、閃光のマリアンヌについては無駄なことまで説明したくせに、シュナイゼルや”お姉様”や”クロヴィスお義兄様”のことについては何も触れていない。そのことから考えて、それらの人物について説明する必要はないと、混乱しているユーフェミアはおそらく無意識に判断したのだ。ルルーシュは彼らのことを知らないとしても、”ルルーシュ”にとってはよく知る人物であるから。
あるいは、先ほどの熱烈な感激ぶりやあの混乱していた様は、実は全部演技なのかもしれない。亡き義兄弟のことを思い出しても感傷にふけることなく、ただの過去と割り切って楽しげに笑う姿こそが、本当のユーフェミアだと考える方が、血染めの皇女と呼ばれる彼女によほど相応しい。
「あ、ごめんなさい。また変な話になっちゃって……」
くすくすと笑っていたユーフェミアは、またも話が変な方向にいっていたことに気付いて、申し訳なさそうな顔になる。ころころと変わる表情は、幼な子の無邪気そのものだ。
これから一年もしないうちに彼女が行うことを、知っているルルーシュもそれを見ていると、思わずつられて口元をほころばせてしまう。
「いいえ、かまいませんよ」
笑いながらも、この無邪気な態度が演技なのだとしたらたいした女だと思っていると、浮かべた笑みは自然と皮肉交じりのものとなる。
それを見ていたユーフェミアは、驚いたように息を呑んで目を見開いた後、複雑そうに眉を顰めた。
「……貴方は……本当に、ルルーシュに似ているのね……顔だけじゃなくて、笑い方までそっくり。ルルーシュも、たまにそんな顔をして笑っていたわ」
ユーフェミアは遠い目をして空を見上げた。その視界に移っているのは、青い色をした空でも白い雲でもなく、過去の光景なのだろう。
「仲の悪い兄弟の相手をしているときや、裏でマリアンヌ様やルルーシュたち兄妹のことを悪く言っている貴族の相手をするとき、お父様の話をするとき……ルルーシュはそんなふうに笑っていたわ。それを見るたびに、そんなふうに笑って欲しくないと思った。ルルーシュにそんな顔をさせるものが――嫌な思いをさせるものなんてなくなっちゃえばいいのにって、そう思った。だって、好きだったんだもの。異母兄弟は結婚できないなんて知らなかった頃は、大きくなったら絶対ルルーシュのお嫁さんになるんだって、そう思ってた。……結婚できないって知ってからも、ずっと好きだった。あの人のためなら、何だってできると思ってたの……それなのに、私、何もできなかった。アリエスの離宮が襲われたあのとき、マリアンヌ様が殺されて、ナナリーがひどい怪我をして……私は、不安になっているルルーシュを訪ねることさえしなかった。ナナリーのお見舞いに行くこともしなかったわ……お母様にどれだけ止められたからって、そんなの無視しちゃえばよかったのに……私は、何もしなかったの。だから、仕方がないんだって分かってる……あの人が私を見て、あの笑い方をしたのは……!」
空を見上げているユーフェミアの瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。死んでしまった初恋の少年を思い出して、涙を流す彼女は、とてもあの有名な血染めの皇女とは思えない。容姿こそ飛びぬけて愛らしいが、それを除けばそこらへんにごろごろいる普通の少女のようにしか見えないのが、不思議を通り越して薄気味悪かった。行政特区日本という形で日本人に希望を与えた直後、集めた日本人たちを虐殺したと言われる皇女の姿と、目の前で泣いている少女の姿が重ならない。まるで、姿が同じだけの別人のようだ。
ルルーシュは制服のポケットから、ハンカチを取り出して差し出した。
「どうぞ」
「……ありがとう」
ユーフェミアは大人しくハンカチを受け取って、頬を濡らす涙を拭って、まだ瞳に涙をにじませながらもぎこちなく笑った。
「ごめんなさい。嫌な気分にさせちゃったわよね。似ているからって、貴方には全然関係ない話を聞かせちゃって……」
「気にしないでください。実は、貴方で三人目なんです」
「え?」
「ルルーシュという名前の、今は亡き皇子にそっくりだと言われたのは。貴方の間違えようなんて、かわいいものですよ。一人目の人間なんか、いくら私が否定しても信じてくれなくて、挙句の果てにはいつの間に性転換したんだ!なんて奇抜なことまで言い出して……さすがに、あれには困りました」
「そ、うなの……?大変だったのね……」
きょとんとした顔で、ユーフェミアは何度も瞬きする。そのために、目尻にたまっていた涙が頬に筋を作った。
「ええ、それはもう」
ルルーシュは力強く頷いて、だからこれぐらいのことで気にする必要はないのだと言おうとしたのだが、それを口にする前に校舎の中からスーツを着た男女がこちらへやって来た。
「ユーフェミア様、そろそろお帰りにならないと……なっ、どうして泣いているんですか!?」
おそらく、ユーフェミアの護衛だろう。この周辺にいるのがユーフェミアを除いてルルーシュしかいないことで、泣かせた犯人をルルーシュだと思ったのか、二人して鋭い視線を向けてくる。
「貴様、ユーフェミア様に何をした!?」
二人は怖い顔で駆け寄ってきて、女の方がユーフェミアをベンチから立たせて、自分の背後にかばうように隠す。男の方は、威嚇するようにルルーシュを睨み付けてくる。睨むだけで行動に出ないのは、この学園に通う生徒に勘違いで下手なことをすれば、まずいことになるかもしれない可能性があるからだろう。
「別に、何もしていませんよ。話している途中で、彼女が泣き出したから慰めていただけです」
本当のことを言ったが、きつい視線は緩まない。ルルーシュはため息をつきながら立ち上がった。迷惑をかけられたのはむしろこちらの方なのだが、気が立っている彼らは、そんなことを聞き入れたりすることはないように見えた。
「どうやら信じていただけないようですし……悪者はこれぐらいで失礼しましょう」
ルルーシュは彼らに背を向けて、先ほど護衛二人が出てきたのとは別の入り口から校舎に入ろうと、整備された小道を歩き出す。
「待て、まだ話は」
「おやめなさい!」
護衛の男はルルーシュを呼びとめようとするが、それをユーフェミアが止めた。
「彼女が言っているのは本当のことです。話の途中で、私が勝手に泣いてしまっただけで、彼女は何も悪くありません。勝手な話につき合わせて、迷惑をかけたのは私の方なのに……あの、私の護衛が失礼なことをして、申し訳ありません!」
校舎までの距離を半分ほど進んだところで、ユーフェミアが声をかけてくる。ルルーシュは振り向いて、不快などちっとも感じていないような顔で微笑んだ。
「気にしていません。それでは、私はこれで失礼します」
「あの!」
会釈をして、再び歩き出そうとしたところへ、ユーフェミアはまたも声をかけてくる。
「ハンカチ、明日ちゃんと返しに行きますから!」
「ハンカチぐらい、別に差し上げますよ」
「いいえ、私のせいで時間を無駄にさせてしまったんですもの。それぐらいさせてください。だから、クラスと名前、教えてもらえますか?」
そう言われて、ルルーシュは自分たちが名前も名乗りあっていなかったことを思い出した。
しかし、さっきまで散々”ルルーシュ”の話を聞かされていた手前、今さら自分の名前を名乗っても、からかっているとしか取られないだろう。だからと言って、ここまで言われていながら固辞するのは、かえって失礼だ。
「……先に言っておきますが、本名ですよ」
一応前もってそう断りを入れておいたのだが、やはり名前を言った瞬間、ユーフェミアは硬直してしまった。ルルーシュはその間に、さっさと退散した。
次の日の朝。自分の席について読書をしていると、軽く肩を叩かれた。視線を上げると、クラスメイトの一人だった。
「何か?」
「ユーフェミア殿下がご用なんですって。お知り合いなの?」
「昨日、少し」
詳しい話を聞きたそうな顔をしている興味津々のクラスメイトを置いて、教室の入り口で少し居心地悪そうな顔をして立っているユーフェミアのところへ行く。一人違う中等部の制服でいて、しかも皇女ということで無駄なまでに注目されていれば、それはさぞかし居心地も悪かろう。
「おはようございます」
「お、おはよう。あの、昨日はハンカチをありがとう」
ユーフェミアはそう言って、アイロンのかけられたハンカチを差し出してくる。
「人違いをした上に、訳の分からない話を聞かせてしまってごめんなさい」
「かまいませんよ」
「本当?」
「ええ」
「……それなら、あの……もしよかったら、私とお友達になってくれないかしら?」
血の皇女と友達。あまりに予想外すぎて、昨日とは逆に今度はルルーシュが凍った。
◇ ◇ ◇
過去へやって来てから、数ヶ月が経った。
ルルーシュは、基本的に朝が早い。目を覚ましてから朝食までの合間は、テレビや新聞で主だったニュースをチェックするのが日課だ。
そしてその日も、毎朝のようにテレビの電源を入れて、ニュース番組の音声を背景に新聞を読もうとしてソファーに座っていた。しかし新聞を開くよりも先に、気になるニュースが聞こえてきて手を止める。
『……エリア11でクロヴィス殿下が殺害され、軍は殺害犯の逮捕に……』
「もう、そんな時期か……」
見ると、新聞の見開きにもニュースと同じようなことが書かれている。その文字を目で追いながら、ルルーシュは教科書や資料集で読んだ情報を思い出していた。
クロヴィス・ラ・ブリタニア殺害。テレビや新聞ではまだ詳しいことは何も語られていないが、ルルーシュは知っている。彼は、黒の騎士団に所属する異形のナイトメアによって殺されたのだ。
黒の騎士団。それは、この時代を語るときには、決して外すことのできない重要なキーワードである。確か、今の時点ではまだ表舞台に姿を表していないはずだが、歴史ではクロヴィスを殺したのは彼らということになっている。
彼らが動き出したということは、あともう少しのはずだ。ユーフェミアが、後世で血染めの皇女と呼ばれる理由になる事件を起こす日まで。有名な出来事だから、無駄に優れた記憶力のせいでルルーシュは日付まできっちり覚えていたけれど、それを実感として感じることは今までなかった。それはひとえに、ユーフェミアが残虐とか悪辣なんて言葉とは無縁の少女にしか見えないからだ。
友達になってほしいと言われた当初、皇女じきじきの申し出を断ることなどできなかったので快く受け入れたが、血染めの皇女なんて名前で呼ばれる物騒な女と友達になんてなれるわけがないと思っていた。けれど、友人として付き合いを深めていくうちに、だんだんとそんな気持ちは薄れていった。ユーフェミアは、浮世離れして見えるほど無邪気で純粋で、多少独善的なきらいはあるけれど、過ちを指摘されればそれを受け入れることのできる素直さを持っていた。ルルーシュからすれば無駄と思えるぐらい優しくて、今の時代のブリタニア人よりはよほどしっかりした倫理観を持っている。そんな彼女が、どうしてあんな歴史を残すことになるのか、ルルーシュには分からなかった。行政特区日本の設立を宣言し、日本人に圧政から解放される希望を与えておきながら、設立の記念式典に集まった大勢の日本人をだまし討ちの形で虐殺するなんて歴史を。
それでも、彼女が犯した……いや、今の時代ではこれから犯すことになる罪は、間違いなく事実なのだ。ルルーシュが生まれた時代に語られている歴史に、間違いがない限り。
その日の昼休み、ユーフェミアがクラスを訪ねてきた。以前ほどその姿が注目されていないのは、最近高等部に上がった彼女が周りと同じ制服を着るようになったためか、ルルーシュを訪ねてくることに周囲が慣れたからか。
「ルルーシュ……お昼、一緒にいいかしら?」
もう何ヶ月も学園にいると、一緒に昼食を食べるメンバーというものは決まっているが、別段一日ぐらい一緒に食べなかったからと言って反感を買うような付き合いはしていない。ルルーシュは快く頷いて、カフェテリアへ移動した。
それぞれの食事を選んで席に着く。暗い顔をしているユーフェミアに向かって、まずルルーシュはお悔やみの言葉を述べた。
「クロヴィス殿下のことは、残念でしたね」
「ええ。気遣ってくれてありがとう。……食べましょうか?」
ユーフェミアはぎこちないながらも笑った。
それからは特に会話もなく、ひとしきり食事を終えた後になって、彼女はようやく口を開いた。
「……クロヴィスお義兄様が亡くなられたことで、エリア11の総督の座が空いたでしょう?」
「そうですね」
「まだ、本決まりというわけじゃないんだけど……次の総督に、お姉様――コーネリアお姉様はどうかという話が出ているの。そして副総督には私を、と……」
周囲に聞かれることを恐れてか、吐息のような声だ。ユーフェミアはまだ本決まりではないと言っているが、わざわざこうしてルルーシュに話してくるということは、ほとんど決まったようなものなのだろう。彼女は頭脳派の人間とは言いがたいが、馬鹿ではないし、口が軽いわけでもない。公式の辞令として話が出れば、学校に来る暇などなくなってしまうから、その前に別れの挨拶を済ませておこうと思って、こんなことを言ってくるのだ。律儀なことである。
「そうなったら、この学園はやめないといけませんね」
「ええ、そうね……」
「寂しくなりますね」
口ではそんなことを言っているが、実際そんなことはちっとも思っていなかった。
もともと、ユーフェミアとの付き合いは学園内においてのみのものだったのだ。ユーフェミアは、皇女という理由から気軽に外出できない。ルルーシュは、学園に通うことは許されているが、それ以外の外出になると未だシュナイゼルの許可を取る必要がある。そのため二人が外で会うことはほとんどなく、どちらかが学園を去ることになれば、そのときが友情の終わりだとルルーシュは勝手に思っていた。安い友情だ。しかしルルーシュの胸のうちにはそもそも、この時代は自分が生きる場所ではないから何か執着するものを作るべきではないという思いがあったし、いくら普通に見えても相手は血の皇女だ。心の底から友情を抱くなんてこと、まともな神経を持った人間ならできるわけがなかった。
「本当に、そう思ってる?」
「友人が遠くへ行ってしまうのに、寂しくないと思わない人間はいませんよ」
自分の心情は語らず、あくまで一般論で返す。単純なユーフェミアは簡単にだまされて、表情を少し明るくする。
「じゃあ、私が学園をやめてエリア11に行ってしまっても、友達を続けてくれる?」
「……ええ、もちろん」
一瞬言葉に詰まったルルーシュだが、すぐに肯定を返す。内心でどう思っているかなんて、欠片も悟らせない笑みを浮かべて。
ユーフェミアがどう思っているにせよ、ルルーシュがユーフェミアと友人でいるのは、皇族である彼女の申し出に逆らえないからでしかなかった。それなりに情は移っていたが、それはあくまでそれなりに過ぎない。切り捨てようと思えば、いくらでも切り捨てることができる程度の存在でしかない。
元の時代で、普通の出会いをしていれば、いい友人になれたかもしれない。けれど、ここは過去だという意識と、近い未来に彼女がすることに関しての知識が、彼女を本当の友人と思うことを許さないのだ。