シャーリーが死んだあの晩、ジノは合意ではあるけれど歪んだ形でルルーシュを抱いた。泣かせてみせろと挑発してきて、拒めば他のやつを相手にするとまで言ったルルーシュが許せなくて、何の手加減もしなかった。気付いたときには、ぐったりと気を失って青ざめた顔のルルーシュが腕の中にいた。あんなふうに抱きたいわけじゃなかった。もっと優しくしたかったのに、ひどくしてしまった。自制することのできなかった自分がどうしようもなく情けなくて、情事の後始末をした後、ジノはルルーシュが目を覚ますのを待つことなくクラブハウスを出た。
それからずっと、忙しさを理由に学園に顔を出すことは避けていた。電話もメールもしなかった。少し時間を置いて冷静にならなければ、何をしてしまうか分からなかったからだ。
そうしているうちに黒の騎士団がトウキョウ租界に攻め込んできて、フレイヤが発動した。トウキョウは半壊した。否、壊れたと言うと正しくない。正確には、半分を残してぽっかりと消えてしまった。アッシュフォード学園は大部分が残っていたが、クラブハウスは消えてしまった。ルルーシュの消息は、いまだ掴めていない。
いったいどこへ行ってしまったのか――シュナイゼルの傘下に下って自由を取り戻した後、持てる権力全てを使って捜索した。リヴァルからもらった電話によると、連絡をもらったから生きてはいるようだが、行方は知れない。
そうしているうちに、フレイヤ投下から一ヶ月が経った。
ブリタニア皇帝が大切な発表をするとのことで、国際生中継で送られているテレビ番組を、ジノはラウンズの面々とともに眺めていた。
謁見の間に、皇帝の去来を告げる声が響き渡る。当然、シャルル・ジ・ブリタニアの姿を世界中の人々が思い描いていただろう。しかしそれは裏切られる。赤い絨毯を踏みしめて進むのは、一人の少女。ブリタニア人にしては珍しい黒髪、すらりとした華奢な体躯、なめらかな白い肌、ロイヤルパープルの瞳、恐ろしいほど整った顔立ち、身にまとうのはアッシュフォード学園高等部の女子生徒服。
至尊の座についた彼女は、まるで人形のように美しい笑みを浮かべて宣言する。
「わたしが、第九十九代ブリタニア皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです」
短いスカート姿にあるまじき所作で、しかしそれすらも完璧なまでの優美さで足を組んだその人は、ジノがもっとも愛する少女と同じ姿をしていた。
「……ルルーシュ……どうして……」
中継が終わるや否や、ジノはいったいどういうことなのだと、シュナイゼルを問い詰めた。
シュナイゼルは答えた。ルルーシュは自分の義妹で、確かにブリタニア皇族で――そして、死んだと公表されている黒の騎士団CEOであるゼロで、人を操る悪魔の力を持っているのだと。
衝撃は大きかった。庶民だと思っていたルルーシュが雲の上の存在で、しかもイレブンの王様だったなんて信じられなかった。けれどシュナイゼルが嘘を語る理由がない。現実にルルーシュは玉座に座り、九十九代皇帝を名乗っている。まるで悪夢のようだと思った。
ルルーシュがゼロで、これまで何度も殺そうとして戦ってきた敵で、主君であるシャルル・ジ・ブリタニアを弑逆した大罪人で、本当は皇族で、新しい皇帝で、人を操る力を持っている……訳が分からなかった。
けれど本能は忠実に体を動かしていたということなのだろう。気がつけばジノはトリスタンに乗って、太平洋の上を飛んでいた。目指すのはブリタニア宮殿だった。何をしたいかなんて分からない。ただ、ルルーシュに会いたかった。
首都ペンドラゴンには数時間もしないうちに着いた。足の速さは折り紙つきだ。首都を見下ろす段になってようやく、これは戦いを仕掛けに来たと取られかねないかということに気付いて、ジノは慌てて通信を入れる。ナイト・オブ・スリーのジノ・ヴァインベルグだ、皇帝陛下にお会いしたい、と。
返事はあっさりと返ってきた。それも是と。ジノは心の中で半分以上拒否されるかもしれないと思っていたので、それを聞いたときは思わず頬をつねってしまった。
軍施設にトリスタンを着地させて外に出ると、そこにはすでに案内役が立っていた。謁見の間に連れて行かれるのかと思ったら違っていて、宮殿の奥の奥――最も厳重に守られた皇帝の居室へと通される。
ラウンズになってから幾度となく、ジノはこの道を通ってきた。何枚も続く豪奢な扉。そしてその一番奥にある皇帝の部屋。けれどその部屋の中にいるのはすでに老いた皇帝ではなく、新しく即位した女皇帝だ。
ノックの音と、格式ばった呼びかけ、扉の中から返ってくる返答。そしてようやく最期の扉が開かれる。
執務机に座ったルルーシュは書類を片手に、ジノに向かって優美に微笑んだ。
「久しいな、ジノ」
「ルルーシュ……」
「おまえは来るかもしれないと思っていたよ」
「どうして……どうしてなんだっ、ルルーシュ!」
「何がだ?わたしが本当は皇女だったことか?皇女だったことを黙っていたのは、見つかりたくなかったからだ。わたしの母はマリアンヌ・ヴィ・ブリタニア――閃光のマリアンヌと呼ばれた女だ。その女とシャルルの間に生まれた二人の子どもがどんな運命を辿ったか、知らぬわけはなかろう?おまえはこの数ヶ月、ナナリーの側にいたのだからな。皇室に戻って、再び利用されるのは御免被りたかった。それともどうしてシャルルを殺したのかを聞きたいのか?はっ、復讐に決まっているだろう。わたしたち姉妹を駒として使い捨てた男……憎んでいないわけがないだろう?ああ、それとも皇帝になった理由を問うているのか?ふん、くだらないな。そうしたかったから……ただそれだけだ。この椅子に座れば、至高の権力が手に入るのだ。ならばれっきとした皇族であるわたしが、父の後を継いで何が悪い。このブリタニアでは強者こそが正しい。だからこれは当然の権利なのだよ」
「ならゼロはっ……ギアスって言うのは……人を操る力って……何なんだよそれ!?」
「何だ、シュナイゼルにでも聞いたか?そうだよ、わたしがゼロだ。世界を壊し、そして世界を創造する男……この姿で言っても様にならないな」
ルルーシュはおかしそうにくつくつと笑う。
「あの学園は、わたしとナナリーのためにルーベンが用意した箱庭だった。木を隠すなら森の中、下手に隠れ住むよりも同年代の子どもの中に混ざってしまった方が見つかりにくいでしょうと言ってな。忠義なことだ……何もかもをなくしたわたしに、な。確かにあの場所は安全な箱庭だったよ。けれどいつか見つかるかもしれない……その怯えは、いつもわたしの胸にあった。だからわたしはブリタニアを破壊することにしたのだよ。怯えて暮らすだけなんて性に合わないからな。後は、ギアスか?そう、おまえの言うとおり、わたしは確かに人を操る力を持っているよ。どんな相手にもただ一度だけ命令を下すことのできる絶対遵守の力……こんなものがなくても反逆は予定していたが、思いのほか役に立ったな。まあ、この力ゆえに騎士団を追われたのだから、それで差し引きはゼロと言ったところか?だが、それも今はもうどうでもいい。あんな武力組織よりも格段に優れたものが手に入ったのだからな」
細められる目も吊り上げられる唇も、芝居がかった口調もわずかに傾げられた首も、それら全てがたとえようもなく美しく優美だ。そう、まるで何か作られたものを見ているように美しい。ゆったりとした豪奢な装束もあいまって、人形のようにさえ見える。
見たことがないほど美しいその姿を、だからこそジノは偽物だと確信した。これほどまでに美しく見えるのは、ルルーシュが言動全てを計算しつくしているからだ。どうすれば自分が最も映えるのか、それを考えて動いているからだ。
「馬鹿な男だ、ナイト・オブ・スリー。わざわざそんなことを聞きにこんなところまで来たのか?愚かしいな。シュナイゼルの傘下に下ったおまえを、わたしが見逃すとでも思ったか?……スザク」
それと同時に天井からスザクが飛び降りてきて、ジノの喉元に剣を突きつける。
「中継のときと同じ手か……」
「だが有効だ。そう何度も使える手ではないがな。スザク、連れて行け」
「イエス・ユア・マジェスティ」
皇帝陛下のみに対して許される返事とともに、突きつけられた剣がわずかに揺らされて、動くようにと促してくる。ジノは動かなかった。その場に立ったまま、ただルルーシュのことを見つめていた。
ルルーシュもまた視線をそらさない。冷ややかな色の瞳は、その意思を示すように揺らぐことはない。
「ルルーシュ。そんなことを聞きにこんなところまで来たのかという問いに、わたしはまだ答えていない」
「ならば何だ?わたしを殺しに来たとでも?傑作だな……早く連れて行け」
「イエス・ユア・マジェスティ……ジノ、来るんだ」
「わたしはルルーシュに会いに来たんだ」
突きつけられた剣が肌へと食い込んで、ぬるりとした感触が喉を伝い落ちていく。剣を突きつけてくるスザクの気配が、ぶわっと怒りに広がるのが分かる。それでもジノはかまわずに続けた。
「聞きたいことはたくさんあった。訳が分からなくて、どうしてこんなことになっているのか理解できなくて、だから何か答えが欲しかった。でも、ここまで来たのはだからじゃない。気がついたら、トリスタンに乗って空を飛んでいた。体が勝手に動いたんだ。……わたしはただ、きみに会いたかっただけなんだ」
ルルーシュの瞳が大きく見開かれる。
ここに来てから初めてジノは、皇帝という仮面の裏に隠されていたルルーシュの素顔を見つけた気がした。馬鹿みたいな理由だと、ただ呆れただけなのかもしれない。けれど揺らいだ目の色は間違いではなかったと思うから、ジノはふわりと微笑んだ。
「ルルーシュ。わたしがきみを殺すと、本気でそんなことを思っていたのか?」
ルルーシュは答えない。
代わりにぎらぎらとした目のスザクが、剣先をいっそう強く押し付けてくる。
「わたしはきみの優しさを知っている」
「優しさ?何の冗談だ?」
「シャーリーの死を悲しんでいた」
ルルーシュがひゅっと息を呑む。
「今にも泣き出しそうな顔をしているくせに、自分には泣く資格がないと言って……ルルーシュはいつもそうだ。誰かに弱みを見せようとしないで、全部自分で解決しようとする」
「いつも?ほんの少ししかともにいなかったおまえに、わたしの何が分かると言うのだ?」
「分かるよ。好きだから。ルルーシュのことが好きで好きで、ずっと見ていたから分かる。……ルルーシュ、お願いだから側にいさせてくれ。きみが何をしようとしているのかなんて分からない。でも、離れればきっと後悔する。きみの側にいたいんだ。忠誠を誓えというのならそうする。我が剣をもって、この身の忠誠をきみに捧げる。だから、お願いだ。一緒にいさせて欲しい」
「……どうしておまえはそこまで……」
ルルーシュは苦しそうに顔をしかめる。その表情は、理解できないと語っていた。
けれどそれでもジノは良かった。理解してもらえなくてもいい。ただ側にいたい。その望みが叶うなら、そんなものは必要ない。瞳を揺らすルルーシュを、ジノはひたすら見つめていた。
やがてルルーシュは、大きく息を吐いた。
「……スザク、剣を下ろせ」
「ですがっ、陛下!」
「必要ない。下ろせと言っている。聞こえないのか?」
「……イエス・ユア・マジェスティ」
不承不承といったのが丸分かりの態度で、スザクは剣を下ろす。
ルルーシュはそれをさらに鞘に収めるよう視線で促してから、ジノへと視線を寄越して手を伸ばしてくる。
「ジノ、こちらへ。手当てをしてやろう」
「あ、うん」
「スザク、救急箱」
向けられた苦笑はあまりにいつもどおりだった。それまでとのギャップにジノは呆然として、ほとんど何も考えないままふらふらと執務机まで歩いていく。差し出された手を取ると、そのままぐいっと下に引かれて膝をつく体制を強要される。
「結構深いな……下がるぐらいすればいいものを」
ルルーシュは喉の傷を観察していたかと思うと、スザクが持ってきた救急箱を開けて、手際よく手当てしていく。そして少し大げさに包帯まで巻いた後、ようやくジノと目を合わせた。
「一緒にいたいと言ったな?」
「ああ」
「それなら側にいろ。忠誠はいらない。臣下としてのおまえなんて欲しくない。おまえはおまえとして、ただおれの側にあれ。……全てが終わり、全てが始まる日――ゼロ・レクイエムの瞬間まで」
「ゼロ・レクイエム……?」
「詳細は後で教えてやる。今聞きたいのは、イエスかノーだ。イエスならば、側においてやる。だがノーならば」
「イエスだ」
厳しく決断を迫るルルーシュを途中でさえぎって、ジノは答えた。
「側にいる。何があっても、ルルーシュが何をしても、わたしはきみの側にいる。きみと一緒にいる」
ルルーシュが何をしようとしているのか、ジノには分からない。けれど優しい彼女のすることならば、どんなことでもきっと理由があるのだろうと思えるから、迷うことはなかった。
曇りない瞳で断言するジノを見て、ルルーシュは複雑な顔で微笑んだ。
「……本当に、馬鹿なやつだよ、おまえは……」
◇ ◇ ◇
そして終焉は迫り来る。
ゼロ・レクイエムの前日、ルルーシュはジノにギアスをかけた。ただ一言、「幸せになれ」と
◇ ◇ ◇
雨のような銃弾を潜り抜け、立ちふさがったジェレミアを足蹴にして、目の前に『ゼロ』がやって来る。希代の反逆者にして、これから英雄となる男。素顔を捨てて仮面をかぶり、世界に身を捧げる男が。
「痴れ者が!」
向けた銃は、引き金を引く間もなく長剣に弾き飛ばされた。全て計画通り。ルルーシュは思わず笑みを浮かべた。
世界中の憎悪をこの一身に集めて、その悪逆皇帝をゼロが討つ。これこそがゼロ・レクイエム。覚悟はとうに出来ている。黒の騎士団、シュナイゼル、問題は全てクリアされた。ただ一つの心残りだったナナリーも、もう心配いらない。彼女はもう、自分の足で歩き出すことができるから。だからもう、この世界にルルーシュはいらない。
憎しみも戦いも、全てルルーシュが持っていく。戦いは終わって、人々は話し合いのテーブルに着くことができるだろう。皆が、幸せな明日を迎えることができるだろう。
「撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるやつだけだ」
それを合図に、目の前に立ったゼロが剣を引く。
そして胸へと向けて迫り来る剣先を、ルルーシュは微笑みすら浮かべて待ち受けた。
けれどそのときすばやく、剣とルルーシュの間に立ちふさがった人影があった。三本に編んだみつあみの髪、海色の瞳、並外れて大きな背丈――行進の最後尾に振り分けておいたはずのジノが、そこにいた。
ルルーシュは瞠目した。なぜ。
次の瞬間剣はジノの腹を貫通して、ルルーシュの胸をも刺し貫く。
「……どうして、ジノ……」
「置いていく気だったのか?」
血の気の引いた青い顔をしてジノは笑う。
そのとおりだ。ルルーシュはジノのことを置いていくつもりだった。だからゼロ・レクイエムの日までと、一緒にいる期限を設けた。シャルルに誓った忠誠を裏切ってまでルルーシュとともにいることを望んだジノが、この日の後も安らかに暮らしていくことを望んで、「幸せになれ」とギアスをかけた。万が一にでもジノがルルーシュをかばったりすることがないように、行進の最後尾に護衛として振り分けて、危険から遠ざけた。
「ひどいな……一緒だって、約束しただろ?」
「だって、幸せになれって、ギアスを……」
体から力が抜ける。剣に貫かれた胸にすがるように触れて、どうにか体勢を維持する。
それに気付いたジノは、ルルーシュの頭を自分の肩にもたれさせた。
「ルルーシュを失った生に、幸せなんてない。明日を迎えることが幸せだと思うきみには、理解できないことかもしれないけれど……死ぬときまできみとともに。それがわたしの幸せだ」
それを境に、ジノの体からも力が抜ける。さすがにつらいのだろう。
「トリスタン、は……最も愛するイゾルデの前で、心臓を……一突きにされて殺されるんだ……ならば、これは……わたしに似合いの最期だとは……そう思わないか……?」
「馬鹿な……ことを……」
「きみを、一人で……逝かせはしないっ……わたしの、イゾルデ……」
ジノは最後の力を振り絞って、腕を上げてルルーシュの両頬を手で包み込み、顔を上げさせる。
「好きだよ、ルルーシュ……愛、して、る……」
ジノは優しく微笑んで、ルルーシュの唇にキスを落とす。それから頬を包んだ手をすべり下ろして、ルルーシュのことを強く抱きしめた。
厚い胸板に顔を押し付けられたルルーシュは、顔が隠れているのをいいことに一筋の涙を流す。
「……最後まで、馬鹿な男だ…………おれも、きっと……おまえの、ことを……あいして……」
そのとき、突き刺さったままの剣がぐるりと肉を抉り、引き抜かれたかと思うと最後は横に薙ぎ払われる。剣という支えを失ったジノとルルーシュは、堅く抱き合ったまま至高の座から転がり落ちる。
一人で逝こうと思っていたのに、わざわざ殺されに来るなんて馬鹿な男だ。転がり落ちた痛みも感じない中で、ルルーシュはぼんやりと思った。馬鹿で、けれどルルーシュは幸せだった。世界中の憎しみを引き受けていこうと思っていた。その中で向けられるひたむきなこの愛は、確かにルルーシュの幸せであった。
全ての感覚が、膜を張ったように鈍く遠い。誰かが手に触れたような気がする。気のせいだろうか。それとも――。
「おねえさまっ、愛しています!」
何もかもが遠く感じる中で、ナナリーの声だけがはっきりと耳に届く。
ルルーシュは微笑んだ。顔の筋肉が動いたかどうかは謎だったが、ルルーシュはそのとき確かに笑った。憎まれたままで逝くと思っていた。それなのに妹は、愛していると言ってくれた。
もうそれだけで十分だった。たとえ世界中に憎まれようと、誰よりも大切な妹にそう言ってもらえるのなら、罪人には過ぎた幸せだ。
ナナリーにしてみれば、ゼロ・レクイエムの真実を知ることなど不幸でしかない。それでも彼女は、その悲しみも虚しさも憤りも、全て乗り越えて生きるのだろう。ずっとずっと、ルルーシュが大切にして守ってきた妹は、もうその庇護下を離れて一人で歩き始めたのだから。
優しくも強いナナリーがいる。ルルーシュの意志を引きついだスザクが――ゼロがいる。敵にあれば誰よりも恐ろしいシュナイゼルは、その一生をゼロに捧げる。そして世界中の人々は、悪逆皇帝と呼ばれたルルーシュの記憶が薄れない限り、平和を保とうと努力することだろう。
そうして優しい世界が完成する。
それでもいつか、再び争いは起こるだろう。平和の尊さを忘れ、人は再び争いを繰り返すのだろう。その愚かしさこそが、人という生き物なのだ。
だからルルーシュは、そのいつかが遠くあることを祈ろう。己が為した悪逆を、世界が忘れることのないように祈ろう。ルルーシュが一度徹底的に壊したこの世界が、ナナリーの、ゼロの、シュナイゼルの、黒の騎士団の、そして世界中の人々の手によって優しく保たれるように祈ろう。
かつて妹が、そして妹のためにルルーシュが願ったことを、今度は世界に在る全ての人々のために。
――世界が優しくありますように。