聞こえるはずのない声が聞こえた。その瞬間ジョミーは時が止まるかと思うほどの衝撃を受けたが、しかし実際にそんなことがあるわけはないので、その間にも時は刻々と動き続けている。驚きのあまり動くどころか瞬き一つすることすらできないでいるジョミーを置いて、事態は回り始める。
「お前……!今さら何なんだよ!?」
ジョミーではなくてその後ろにいる誰かに向かって、トォニィが険しい声を向ける。
「ジョミーが死にそうになってても起きなかったくせに、どうして今になって……!!」
「確かに君が言う通りだ」
すぐ近くから、再び聞こえるはずのない声が聞こえた。幻聴だろうかと思う。けれどそれならば、背後からジョミーのことを抱きしめているこの腕は、いったい誰のものだと言うのだろう。それともこれもまた幻なのかもしれない。声が聞こえるのと同時に、抱きしめてくる腕にいっそう力がこめられたのを感じたのも、全て全て幻に過ぎないのではないか。
「けれど……どうやら僕は、自分で思っていた以上にわがままな男だったようでね」
疑いは止まないのに、その間にも聞こえてくる声も背中に触れている体温も、幻と化して消えることはない。もしかしたら、幻なんかではなくて本物なのかもしれないという考えが脳裏をよぎる。そう思うと、振り向きたくてたまらなくなった。けれど同時に、振り向きたくないと思う。振り向いて、もし予想を裏切られたりしたら、きっと耐え切れない。
「わがままって何だよ!?」
「ジョミーが死ぬことよりもずっと、ジョミーが僕以外の誰かの手を取ろうとしたことの方が耐えがたかったらしい」
そんな言葉と同時に、背後から伸びてきた手に顎を取られて、優しい手付きで後ろを向くように促される。驚愕から抜け切っていないジョミーの体は操り人形のように従順にそれに従った。
「久しぶりだね、ジョミー」
振り向いた先で、間近から向けられた懐かしい微笑みに、ジョミーの瞳からは無意識のうちに涙があふれていた。
「……ブルー……?」
「そうだよ」
ジョミーの頬を流れ落ちる涙をさりげなく指で拭いながら、ブルーは優しい声で肯定する。それでもジョミーは目の前の現実が信じられなくて、呆然と目を見開いたまま力なく首を横に振った。
「……でもっ……ブルーは、眠ってて……」
「ついさっき目が覚めた。……言っただろう?僕はわがままなのだよ」
わがままなのだよ、なんて言われても先ほどまでの会話は正直呆然となっていたジョミーの耳を右から左に通り過ぎていっていたので、訳が分からなかった。けれど向けられる微笑みは、そらでブルーの顔を思い出すことすらできなくなってしまったジョミーの想像できるようなものではなかったので、これが幻ではないのだと分かった。
「本当に、ブルーなんですか……?」
それでも信じられなくて問いかけると、意地悪な質問が返される。
「では、こちらからも問おう。僕以外の誰に見える?」
ブルー以外の誰にも見えないからこそこんなにも困惑しているのに、そんなことを聞かないで欲しい。声も、顔も、感じる体温も、全て過去に馴染み知ったものにしか思えない。今ここにいるのがブルーなのだと、その存在全てでジョミーに訴えてくる。
これが現実でしかありえないのだとはっきりと意識した瞬間、ジョミーの心を襲ったのは、歓喜ではなかった。それよりもずっと複雑な感情が心の中を渦巻いて、それゆえにジョミーは瞳からぼろぼろと涙をあふれさせた。
「どうして……?」
それ以外、言葉になんてならなかった。どうして死にかけていた数時間前ではなくて、今になって起きるのか。訳が分からない。
「目を覚まして欲しくなかった?」
「ちがっ……!」
意地の悪い問いかけを必死になって否定する。
「違う……っ……違います……!」
ブルーが目を覚ましたことがうれしくないわけではない。けれどもう今はもう、それを素直に喜ぶことなんてできないだけだ。
ブルーが眠っていた十四年間で、ジョミーの気持ちは変質してしまった。ブルーに自分の命を分け与えたあの日、胸にあった綺麗で純粋な思いは歪んでしまって、綺麗なだけではなくなってしまった。ジョミーが悪いのに、ブルーを責めてしまった。嫌いだと思ってしまうようになった。そして何よりつい数時間前にあった出来事のせいで、今の自分の気持ちが分からない。ブルーのことを好きだと思っていたはずなのに、絶望が気持ちの全てを覆いつくしてしまった。一瞬、トォニィに流されてもいいと思ってしまった。
こんなふうに気持ちが変わってしまうことなんて、知りたくなかった。恋とはもっと綺麗なものだと、そう思っていたかった。醜い気持ちなんて、そんなことを思ってしまう自分なんて知りたくなかった。
十四年前のジョミーは、この先どんなことがあってもブルーのことを好きでいられると思っていた。けれど違った。
「っ……う……」
涙があふれて止まらない。
今までずっとブルーが眠り続けていたのは、ジョミーのせいだ。それなのにジョミーは、ブルーを思い続けていることができなかった。それを裏切りと言わず、何と言うのだろう。
「ごめ、なさい……ごめんなさい……!」
何に対する謝罪なのか、謝ることが多すぎてそれは自分でも分からなかったけれど、ただ謝らないといけないと思った。
「ジョミーが謝ることなんてないよ!」
ぼろぼろと泣きながら謝っていると、つないだままだった両手に力をこめてトォニィが叫ぶ。そのことでジョミーはようやくこの場にいたのが、自分とブルーだけではなかったことを思い出した。忘れていたと言うとひどいと思われるかもしれないが、あまりに驚くことがあると人間状況を忘れるものである。仕方がない。
しかし、それを仕方ないの一言で片付けることができないのがジョミーである。生涯をかけた告白をしてくれた人間のことを一瞬でも忘れるなんて薄情に過ぎると気付いて、首をひねって顔だけを後ろに向けていた不自然な体勢から慌てて顔の向きを戻そうとするが、トォニィと視線を合わせる前にブルーの片手で両目を覆い隠される。同時に、肩の上から体に回されていたブルーの腕にそれまで以上の力がこもって、後ろに抱き寄せられる。何事かと驚いていると、ひどく優しい声が耳元に寄せられた。
「駄目だと言っただろう?僕以外を見るなんて、許さない」
「っ……!」
あまりに自分勝手な言葉に、ジョミーは思わず息を呑んだ。その言葉と同時に、ジョミーの手を強く握っていたトォニィの手が弾かれたように離れたことも、続いて足元の支えが一瞬だけ消えてすぐにそれまでいたのと同じぐらい柔らかいスプリングの感触を感じたことにも気付かないぐらい、ささやかれた言葉が理解できなくて呆ける。その間にブルーは両手でジョミーの腰をつかんで持ち上げて、自分と向かい合うような体勢を取らせる。
微笑んでいるブルーの姿が目に入った。その瞬間、自分でもどうしようもないぐらいの怒りがふつふつと湧き上がってくるのをジョミーは感じて、歯を食いしばった。
「何だよ……それ……!」
周りの景色が変わっていて、自分たちが蒼の間のベッドの上にいることにも気付かないぐらい、ジョミーは怒っていた。
「許さないって何だよ!ずっと……ずっと、眠ってたくせに……!!」
ぼろぼろと泣きながら、それでも目を伏せたりすることはせず、胸倉をつかんでブルーのことを睨み付ける。次から次へと涙があふれてくるせいで、物の形と色が判別できるのがやっとなぐらい視界はにじんでいるけれど、そんなことは関係なかった。
「どれだけ起きてって言っても、僕が死にそうになっても起きなかったくせに、どうしてそんなこと言うんだよ!?」
けれどすぐにブルーを睨み付けていた視線を落として、ジョミーは力なく首を横に振った。それが筋違いの怒りなのだと分かっていたから、八つ当たりを長く続けることはできなかった。怒りの代わりに自己嫌悪が胸を占める。
「……ちが……違う……ブルーは悪くないって、分かってるんだ……僕があんなことしなかったら……っ……ブルーは眠ったりなんかしなくて、それは分かってるはずなのに……」
頭の中がぐちゃぐちゃで何が言いたいのか、自分でも分からない。言いたいことも自分の気持ちもどうして今になってブルーが目を覚ましたのかも、何もかもが分からない。胸倉をつかんでいたはずの手にはすでに力など入っておらず、まるですがり付いているようだと気付いたジョミーは手を離して、代わりにシーツをつかんだ。
「もう……嫌だ……」
「ジョミー……顔を上げて」
何も言わずに首を横に振って、嫌だと拒否の念を示す。そうするとブルーはそれ以上無理を言ってくることはせず、代わりにと言わんばかりにジョミーを抱きしめた。ブルーの胸に顔を押し付けられる。涙で服が汚れると言いたかったけれど、そんな言葉よりも先に出てきたのは新たな涙で、ジョミーの喉から出てくるのは嗚咽だけだった。
「好きだよ」
「っ……うそだ……!」
「嘘じゃない。愛してる、ジョミー」
「うそだ……っ」
好きだと言われても、長い間待ち続けている間にひねくれてしまった心は、それを素直に真実と信じることを良しとしない。信じられない。
泣きじゃくっているジョミーを抱く腕に力をこめて、ブルーはささやくように続ける。
「苦しめてすまない……けれど、僕は欲しかったんだ――どうしようもなく、君の心が欲しかった」
この流れでどうしてそうつながるのか分からず、ジョミーは泣きながらわずかに首を傾げる。
「僕がずっと眠り続けていた理由を、どうやら君は勘違いしているようだけど……僕は決して優しさなんかで君から分け与えられた命を受け取るのを拒否していたわけじゃない」
ずっと信じていたことをあっさりと否定されて、ジョミーは目を見開いた。驚愕に涙さえ止まる。思わず顔を上げると、微笑んでいるブルーと目が合った。ブルーは微笑んだまま、ジョミーの頬に残る涙を指で拭って再び口を開いた。
「眠っている間、ずっと君を見ていた。君の苦悩も葛藤も悲嘆も哀切も……君の考えは、僕のことでいっぱいだった。トォニィが生まれてからは少し違ったが……それでも君は悩みながら、ずっと僕のことを考えていた。それが見たかったから、僕はずっと眠っていたんだ」
「何だよ、それ……」
ひどいと思った。そんなことのためにブルーはずっと眠っていたのかと思うと、許せないと思った。それなのにどうしてだろう――心のどこかで、うれしいと感じている自分がいるのは。
そう考えて、気付く。このひどい言葉はまるで、熱烈な告白のようではないかということに。好きだとか愛してるとか、そんな言葉たちよりもずっと分かりにくくてひねくれているけれど、こちらの方がずっと生々しくて、綺麗でありきたりの取り繕われた言葉ではない分真実味を感じさせる。嘘だと断じた先ほどの言葉が、真実なのだと感じさせてくれる。
そう気付いた瞬間、止まったはずの涙が滝のようにあふれてくるのが分かった。
「ふ……うっ……」
「すまない……けれど、君が思うほど僕は優しくなんかないんだ。ねえ、ジョミー……三百年間、僕はずっとただ一人のことを――君のことを好きだったと言ったね。けれど本当は……それと同じぐらい憎いと感じたこともあったよ。どうして僕を置いて死んでしまったんだと、理不尽に責めたくなることもあった。どうしてこんなに死んでしまった人のことが忘れられないんだと思って、忘れようとしたこともある……でも、忘れられなかった。どうしても、好きだと思う気持ちが消えることはなかった。だから僕は君が彼女だったのだと知った瞬間、君からも同じだけの気持ちが欲しいと思ってしまった。綺麗なだけの気持ちなんていらない……もっと激しくて生々しい感情が欲しいと……嫌いだと思う気持ちを乗り越えて、それでも好きだと言ってくれる深い気持ちが欲しいと、そう思ってしまったんだ」
「そんなの……勝手だ!」
「そうだよ。僕はわがままなのだと、いったい何度言わせる気だい?だからね、ジョミー。僕を好きだと思いながら死ぬのはかまわない」
「なっ……!」
あまりの言葉にジョミーは言葉を失った。もはや勝手だとかわがままだとか、そんな領域を通り越している。絶句しているジョミーに頓着することなく、ブルーは幸せそうに瞳を細めて続ける。
「僕を思ったまま死ねば、君はもう誰のものにもなったりしない。僕だけのものなのだと思える……君が死に瀕していても起きなかった理由は、だからだよ」
「何、それ……」
トォニィに命を救われて目を覚ました後、こんなときになってもブルーが目を覚ましてくれなかったと知ったとき、ジョミーがどれだけ絶望したか知っていてそんなことを言うのだろうか。自分が眠っている間にジョミーがどんなことを感じていたのか先ほど語ってくれたブルーなのだから、知っているに決まっている。知っていながら言っているのだ。確実に。
「けれど、僕を忘れて生きていくなんて――そんなことは許さない」
「……ひどい……」
「知っている。けれど、身を引こうとした僕を許さなかったのは君だ。あのときに、君がそのつもりなら僕も遠慮などしないと決めた」
つまり、自業自得ということかと理解する。しかしだからと言って、納得できるかどうかと問われればそれは別物で。
「……嫌い」
「僕は好きだよ」
「っ……嫌いだ!貴方なんか……大っ嫌いだ!」
「では、逃げればいい。サイオンを暴走させて時を渡ったあのときのように……僕から逃げればいい」
嫌いだと言っていても、逃げることやブルーから離れることなんて考えもしていなかったジョミーは、ぱちりと目を瞬いた。それを見て、ブルーは笑う。
「そんなこと全く考えていなかったという顔だね……嫌いなんていう嘘つきな唇よりも、君は表情の方がずっと正直だ」
するりと指先で唇をなぞられながら言われた言葉の内容を、認められるわけがなかった。触れてくる指先を振り払って、ジョミーはブルーを睨み付ける。
「逃げればいいなんて言って、逃がしてくれる気なんてないくせに……!」
「そうだね……でも君だって、逃げる気なんてないだろう?」
「それは……!」
とっさに言い返そうとするが、言葉が見つからない。苦しいと思いながらも視線を伏せて、無理やり理由をひねり出す。
「トォニィたちがいるからで……そうだ、トォニィは……!?」
名前を出したことでトォニィのことを思い出して、ジョミーは勢いよく顔を上げて周囲を見渡した。場所が蒼の間に移っていたことに、今になってようやく気付く。トォニィの感情がどういうものかは断定しかねるが、自分が他の誰よりもあの子供に好かれていることも執着されていることも知っている。ついでに、いつの間に場所が移っていたのかは知らないが、あの状況で放り出されたからと言って、大人しくしているような性格をしていないことも知っている。追ってこの部屋までテレポートしてくるぐらいのことは簡単にやりそう――むしろやって当然なぐらいなのに、どうして姿が見えないのか不審に思っていると、ブルーが言った。
「話をするのに邪魔だったからね、少し眠ってもらった。手荒なことはしていないよ。サイオンで眠気を増幅させただけだ。気持ちよく眠っているはずだよ」
「だからって……!」
「ねえ、ジョミー」
それまでと違って、少し冷たい声で名前を呼ばれて、ジョミーはぴたりと動きを止める。
「僕は少し怒っているんだよ……君があの子供に流されてしまいそうになったこと」
「……そんなの……ブルーがずっと眠ってたせいなのに……!」
ずっと目を覚まさなかった理由が優しさなんてものからではなかったことを知れば、責めるのは簡単だった。
「うん、そうだね。だからこれからは、ずっと一緒にいるよ。もうあんなふうに眠ったりしない」
「今さら!」
「分かってる」
「僕はもう……ブルーのこと好きなのかどうかも分からないのに……!」
「それは僕が知っているから、それでいい」
「僕が分からないことがどうしてブルーに分かるんだよ!?」
「今、僕のこの腕の中から逃げようとしないのが君の答えだ」
当たり前のことのように、先ほどと指摘された事実が答えなのだと言われる。そんなこと答えにならないと言いたくなったけれど何故か言葉が出てこなくて、ジョミーはブルーの胸に自分の顔を押し付けるようにして顔を埋めた。ジョミーには本当に分からないのに、一人分かったような顔をして余裕たっぷりのブルーのことがひどく憎らしかったけれど、今はただこの腕の中から離れたくなかった。
◇ ◇ ◇
「おはようございます、ジョミー……それで、ソルジャー・ブルーが目を覚ましたっていうのに、どうして貴方はそんなに不景気な顔をしてるんですか?」
翌日、サイオンを酷使したせいで倒れていたシロエが目を覚ましたと聞いて見舞いに行ったジョミーへの、シロエからの第一声がそれだった。
「……何で知ってるんだ?」
ついさっき目を覚ましたという連絡をもらったばかりなのに、どうしてブルーが起きたことを知っているのだろうと思いながら、シロエが上半身を起こしているベッドのすぐ側にある椅子にジョミーは腰掛けた。ブルーは朝から長老たちやその他大勢のミュウたちの相手をするのに忙しくてジョミーの側にはいないし、医務室に足を運んだりする余裕なんてないはずだから、現物を見て判断したなんてこともないはずだ。
「起きぬけにドクターたちが親切に教えてくれたんですよ」
「……それもそうか」
シロエがシャングリラに来たときにはすでに寝たきりになっていたブルーだが、彼はミュウの長である。ブルーに対して何の思い入れも持っていないシロエが相手であっても、ちょっとした会話の折に、その目覚めについて一言も口にしないなんてことはありえない。そんなことも失念していたのは、昨夜からの混乱がまだ続いているからなのかもしれない。
「っていたっ、ちょ、いたい!」
自分の考えに沈みこんでいきそうになっていると、唐突にシロエに左頬をつねられた。一応力加減はしてくれているのだろうが、それでも何だか微妙に痛くてジョミーは涙目になって、どうしていきなりこんなことをするのかという気持ちを込めてシロエを見る。
「人と話しているときに他のことを考えるんじゃありませんよ。全く、本当に貴方は仕方のない人ですね」
「う……」
いつもなら、これぐらいのことは見逃してくれるのに、どうして今日に限ってこんなに意地悪なのだと恨みがましい視線を送っていると、視線の先でシロエは疲れたようなため息を吐いて、ジョミーの頬をつまんでいた指先から力を抜いてくれた。
「それで、どうしてそんな顔をしてるんです?ソルジャー・ブルーが目を覚ますのをずっと待っていたのに、うれしくないんですか?」
核心を突くことを言われて、ジョミーはそっと目を伏せて消え入りそうな声で答える。
「……分からない……」
「何ですか、それ」
呆れたような声が心に痛くて思わずびくりと肩を揺らすが、ずっと触れたままだった指で今度は優しく頬を撫でられる。
「まあ、別にいいですよ……正直そんなこと言われると、諦めた僕が馬鹿みたいに思えるから少し腹立たしいんですけど……」
言葉とは裏腹に優しい声と仕草をいぶかしんで顔を上げると、いつもの皮肉気だったり生意気だったりする笑い顔とは違って、優しい笑みを称えたシロエがそこにいた。
「貴方が選んだことなら、たとえどんなことだって僕は反対したりしません。忘れないでください、ジョミー……何があっても僕は貴方の味方だということを」
「……そんなの、君がここに来てからずっとそうだったじゃないか」
何だか気恥ずかしくて、ジョミーはすねたように顔を逸らして言葉を返す。
シロエの心強い言葉に安堵していたジョミーは、優しい笑顔の裏でまさかシロエがキース・アニアン抹殺計画なんてどす黒いことを考えているなんてことにはまるで気付いていなかった。
●完結●